この記事の要点
  • 生産活動の経費と福祉サービスの支援費用を区別してから、商品別の原価を整理します。
  • 売価連動の手数料は固定額と分け、製造数ではなく販売予定数から単価を試算します。
  • 売れ残りが廃棄になる場合と、在庫として持ち越す場合を混同しません。
  • 値上げだけでなく、包装、製造数、販路を変えたときの工賃原資と作業負担を比較します。
布小物と包装材、電卓、記録用ノートを並べて原価と価格を検討するイラスト
商品と包装、必要な経費を見比べるイメージイラスト。実在施設の商品や販売実績ではありません。

最初に確認する制度上の関係

2026年10月時点の全国共通の指定基準第201条では、B型の工賃は生産活動の収入から必要な経費を差し引いた額に相当する金額を支払う関係です。工賃水準の向上に努め、毎年度の目標を設定することも定められています。

基本的な関係

生産活動による収入 − 生産活動に必要な経費 = 工賃の原資

この関係があるため、商品が売れていても必要経費が大きければ、工賃原資は増えません。一方で、必要な経費を計算から外すと、販売を続けるほど資金や職員の運用負担が厳しくなる可能性があります。

具体的な勘定科目、共通経費の配分、積立、消費税の処理は、法人形態、採用する会計基準、自治体の運用、課税関係によって確認が必要です。本記事は会計・税務上の仕訳を指定するものではありません。

施設の支出をすべて商品原価に入れない

就労支援事業会計の運用ガイドライン(令和3年度、本文25〜27ページ)は、生産活動に直接必要な費用と、福祉サービスの支援・管理に要する費用の区分を示しています。職員人件費や共通経費を一律に工賃原資から引くのではなく、配置・業務・合理的な配分根拠を確認します。

以下の「工賃原資」は、利用者工賃以外の生産活動経費を引いた後の商品別の計画額です。目標工賃を経費にも入れて二重に差し引かないようにします。実際の決算での工賃計上や、事業全体での工賃配分とは区別してください。

材料費以外に確認する原価

区分例確認方法
材料・仕入原材料、部品、仕入商品商品1個当たりの使用量と仕入単価を記録
包装・表示袋、箱、ラベル、説明書、食品表示外装・内装・予備を含めて計算
販売費EC・決済手数料、出店料、委託販売手数料販路ごとの率・固定額を分ける
物流納品、宅配、保管、搬入、返品施設負担と購入者負担を分ける
試作・ロス試作品、不良、期限切れ、破損一定期間の実績を販売数量へ配分
品質・検査検品、衛生検査、外部試験、許認可関連商品・ロットに必要な費用を確認
設備・道具機械、金型、器具、修繕、消耗品使用期間や生産数量に応じた配分を検討
その他外注加工、デザイン、撮影、販促物初期費用と継続費用を分ける

費用を細かくしすぎると更新が止まります。最初は金額が大きい項目、値上がりしやすい項目、販路によって変わる項目から記録します。

価格を考える3つの視点

1. 原価: いくら未満では続けにくいか

材料、包装、販売、物流など、商品をつくって届けるために必要な費用を確認します。さらに、販売数量に対してどの程度の工賃原資を生みたいかを計画します。

2. 購入者の価値: 何に対して支払うか

味、品質、デザイン、使いやすさ、希少性、贈りやすさ、地域性など、購入者が選ぶ理由を確認します。「福祉施設で作った」という背景だけを価値の全部にしません。

3. 競合: 何と比べて選ばれるか

同じ用途、容量、品質、販売場所の商品を比較します。競合と同じ価格に合わせるのではなく、違いを説明できるか、売り場でどの価格帯に置かれるかを確認します。

原価だけでなく需要と競合も見たうえで価格を考えます。B型の経費区分や工賃支払いは、指定基準・会計資料を別に確認します。

100個作って、80個しか売れなかったら

試算の仮定: 100個を製造し、利用者工賃以外の経費は下表の金額とします。施設の実績、相場、特定サービスの手数料ではありません。消費税による影響は省略し、すべて同じ金額基準で比較します。

100個を製造するための経費計画額
材料20,000円
包装・表示8,000円
施設が負担する固定の配送・搬入費4,000円
試作に使う追加材料3,000円
生産用設備・検品等の配分5,000円
利用者工賃・販売手数料を除く経費40,000円

販売手数料は売上の10%という仮定で、売れた数に応じて別に計算します。目標工賃原資は合計30,000円。売れ残った20個は同じ期間内に期限切れ・破損で廃棄し、期末在庫はないものとします。

条件売上 − 手数料 − その他経費計画上の工賃原資
800円で100個販売80,000円 − 8,000円 − 40,000円32,000円
800円で80個販売、20個廃棄64,000円 − 6,400円 − 40,000円17,600円
1,000円で80個販売、20個廃棄80,000円 − 8,000円 − 40,000円32,000円

800円で100個売れれば目標を上回りますが、80個では不足します。1,000円で80個売れた場合の工賃原資は、800円で100個売れた場合と同じです。ただし、1,000円で80個売れるという保証はありません。実際の購入者の反応と販売数で確かめます。

持ち越せる在庫は「廃棄」と別に扱う

この例では100個分の経費を同じ期間に負担する前提にしています。翌期に販売できる在庫が残る場合、棚卸資産や売上原価の扱いを確認せず、その経費をすべて当期分として処理しないでください。現金の残高とも別の話です。会計資料と専門家に確認します。

単価より「施設へ残る売上」を見る

購入者が支払う店頭価格が同じでも、直販、委託販売、卸、ECでは施設へ入る金額と必要経費が異なります。販売個数だけでなく、販路別の売上と経費を確認します。

売価に連動する手数料の計算

売上に一定率の手数料がかかるとき、経費と目標工賃原資の合計を販売数だけで割ると、手数料分が不足します。上の例の条件なら、次の式で目標に届く単価を試算できます。

計画単価の試算式

(利用者工賃以外の経費 + 目標工賃原資)÷ 販売予定数 ÷(1 − 手数料率)

手数料10%は0.10として計算します。複数の手数料で対象額が違う場合や固定手数料がある場合は、それぞれの条件に合わせて計算を組み直します。

  • 100個販売の予定: 70,000円 ÷ 100個 ÷ 0.90 = 約777.78円。1円単位で切り上げるなら778円です。
  • 80個販売・20個廃棄の予定: 70,000円 ÷ 80個 ÷ 0.90 = 約972.22円。1円単位で切り上げるなら973円です。

これは目標に届く条件を知るための試算で、適正な店頭価格を決める式ではありません。税、手数料の端数処理、送料、実際の売れ行きで結果は変わります。また、手数料差引後の入金額を売上の代わりに使う場合、手数料をさらに引いて二重計上しないよう、売上明細と入金明細を照合します。

販路ごとに計算を分ける

販路確認する条件見落としやすい点
施設・マルシェで直販出店料、決済、搬入、販売担当、売れ残り販売準備と当日の運用負担
委託販売販売手数料、精算、返品、破損、陳列売れるまでの在庫期間と返品
卸売卸価格、ロット、納品、掛取引、表示店頭価格ではなく卸売上で採算を見る
EC決済、モール、梱包、送料、保管、返品1件ごとの発送作業と小口資材
法人ギフト数量、名入れ、個別包装、納期、配送先試作、校正、短期集中の作業負担

一つの商品に一つの価格だけを設定して終えるのではなく、販売方法ごとに受取額と経費を試算します。卸や大口注文では単価が下がっても、販売・発送の負担が減る場合があります。反対に、数量が増えるほど検品や保管が増えることもあります。

販売先に確認する4つの質問

  1. 手数料は何にかかりますか: 商品代だけか、送料を含む決済総額か。率、固定額、消費税、端数処理を明細で確認します。
  2. 売れ残り・返品は誰が負担しますか: 返送費、破損、期限切れ、値引きの承認者を確認します。
  3. いつ、どの明細で精算されますか: 売上日と入金日は別に記録し、先払いの材料費を賄えるかも確認します。
  4. 数量・包装・納品条件を変えられますか: 小口発送をまとめる、既製の箱を使う、受注後に製造するなど、相手と調整できる条件を探します。

企業の担当者が発注条件を整理するときは、法人ギフトの価格・納期に含まれる費用も確認してください。施設に価格だけの無理な引下げを求めず、仕様や数量を一緒に検討する材料になります。

販売会の準備と終了時の照合

B型施設の販売会・マルシェ準備では、食品の相談、持ち物と役割、販売数・残数・釣銭の照合、工賃原資と現金の違いを確認できます。

価格を見直す6つの手順

  1. 商品別に実績を集める: 売上、販売数、材料、包装、手数料、物流、ロスを確認します。
  2. 販路を分ける: 直販、卸、委託、EC、法人注文を混ぜずに見ます。
  3. 工賃原資を確認する: 商品ごとに売上から必要経費を引いた金額を確認します。
  4. 購入者と競合を見る: 売り場、用途、容量、品質、選ばれる理由を整理します。
  5. 価格と仕様を試す: 値上げだけでなく、容量、包装、セット、販路の変更も検討します。
  6. 販売後に更新する: 原材料価格、売れ行き、ロス、工賃原資を定期的に見直します。

試す前に、期間、売り場、製造数、比較する条件を決めます。たとえば同じ販売先で包装だけを簡素にした場合、売価だけでなく包装費、販売数、返品、作業負担を比べます。価格も包装も販売先も同時に変えると、どの変更が効いたのか判断しにくくなります。

結果を見て、何から変えるか

見えてきた状態最初に確かめること検討する変更
売れているが原資が少ない包装・手数料・送料の内訳、商品価値の伝わり方包装仕様の見直し、条件交渉、小規模な価格テスト
値上げ後に販売数が減った値上げ前後の工賃原資の合計と、残った在庫価格帯・容量・セットを再検討。単価の上昇だけで成功としない
廃棄が多い期限、販売曜日、売れる数量の偏り小ロット化、予約・受注生産、販売先や品数の整理
梱包・検品が集中する注文ごとの仕様、再作業、本人の希望と必要な支援包装の共通化、納期の調整、無理なく担当できる工程分け
商品別の費用が分からない共通経費の配分根拠、仕入れ・在庫の記録大きい費目から整理し、会計担当者・専門家に区分を確認

工賃の目標を理由に、本人の希望や体調、必要な支援を後回しにしないことも大切です。短納期や作業量を増やす前に、工程、受注数、支援体制の両立を確認します。

見直したい価格設定

  • 材料費に少額を足すだけで価格を決めている
  • 直販価格のまま卸・委託販売を受けている
  • 包装、販売手数料、配送、ロスを商品別に把握していない
  • 売れた個数だけを見て、工賃原資が残ったか確認していない
  • 商品数が増え、少量資材や在庫の管理負担が大きくなっている
  • 「福祉の商品だから安く」という想定だけで価格を抑えている
  • 値上げの前に、容量、品質、見せ方、販売場所を検討していない

価格を上げれば必ず工賃が上がるわけではありません。販売数量が大きく減る、廃棄が増える、工程が複雑になる場合もあります。価格、仕様、販路、生産量を一緒に検討します。

最低限残したい記録

  • 商品名、規格、販売価格、販路、集計期間
  • 期間中の製造数、販売数、返品数、廃棄数、期首・期末の在庫数
  • 材料・包装の使用量と単価
  • 手数料の率・対象額・固定額と、明細上の売上・入金額
  • 物流、試作、検品、再作業で発生した費用と配分根拠
  • 利用者工賃以外の必要経費を引いた計画額と、事業全体での実際の工賃
  • 価格や仕様を変更した日・理由と、購入者の反応、作業負担

すべてを一度に精密化する必要はありません。売上が大きい商品、赤字の可能性がある商品、原材料が値上がりした商品から始めます。

商品別の改善を、施設全体の計画につなげる

B型施設の工賃向上計画の書き方では、改善額の計算、担当と期限、月次で続ける・変える・止める判断、本人への説明を確認できます。

商品別の原価と販路を整理する

B型施設からの相談は無料です。現在の商品、価格、販売方法、困っていることから、負担を抑えて確認できる方法を一緒に考えます。

施設向け支援を見る

参考資料

実際の工賃は事業全体の収支と工賃規程等を確認します。余剰金を自由な利益として扱ったり、条件を確認せず積み立てたりせず、個別の会計・税務は指定権者、税理士等の専門家、採用する会計基準で確認してください。資料確認日: 2026年10月23日。